見本 かしの木村たんていものがたり

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表紙


文:如月みめい
絵:長谷川彩美

しんちゃん

しょうがっこう にゅうがくおめでとう!
しっかりまなんで いっぱいあそんでね。

おじいちゃん・おばあちゃんより

みなさん、はじめまして。
ぼくのなまえは、くつたにしんやです。

かしの木村で、たんていじむしょを ひらいています。
おまわりさんの キツネじゅんさは、となりのかえで町に
すんでいるので、かしの木村では なにかこまったことが
おこったら、みんな ぼくのじむしょに きます。

でも、かしの木村は ちいさくてしずかな ところなので、
ぼくは だいたい いつも、たいくつで たいくつで
たまらない 毎日を おくっています。

「たいくつだねえ、しんちゃん
ジェイは 大きなあくびを、ひとつしながらいいました。
ジェイは ぼくの助手です。

「こんな いいお天気の日は、ピクニックにでも いきたいなあ」
「ここからだって ピクニックは できるよ。 三かい建てだから、かしの木村じゅうが 見わたせる」
ぼくは、今日 五はい目のおちゃを カップに入れながら いいました。 
なにしろ ひまなので、おちゃを のむくらいしか することが ないのです。
「ジェイも おちゃを のむかい?」
「ぼくは もう、七はいも のんだから、やめておくよ」
ジェイが そう言ったとき、よびりんが なりました。

今日 はじめての いらいにんです。

「あのう、こちらで たんていじむしょを ひらいているって うかがったんですけど・・・」
ドアをあけて おずおずと 入ってきたのは、かわいい ウサギの 女の子でした。
「どうぞどうぞ、お入り下さい! ぼくは 助手のジェイ、 こちらは たんていの しんちゃんです」
ジェイは ヒゲを ピクピクと動かしながら いいました。
こうふんすると、いつも こうなるのです。

「はじめまして、わたしは ホリーです」
ホリーさんは ぼくたちに ピョコンと 頭を下げると、 おきゃくさま用の 上等のいすに こしかけました。
「それで、ホリーさんの ご用けんは?」
「はい」
ホリーさんは、ぼくとジェイのかおを かわるがわるに みつめました。
「じつは、わたしの ゆめを さがしてほしいのです」

「ゆめですって!」
ぼくと ジェイは 思わず 大声で いいました。
こんな おかしないらいは じむしょをひらいて はじめてです。
「で、それは いったい どんな ゆめなんですか?」
ぼくがきくと、ホリーさんは とたんに かなしそうなかおに なりました。
「それが・・・・・・とってもいいゆめだった、と いうことしか おぼえていないのです」

「あのですねえ、ホリーさん・・・・・・」
いいかけたジェイを、ぼくは あわてて とめました。
せっかく たいくつなところにきた、たった一つの いらいです。
それに、こんなに むずかしいじけんを かいけつしたら  みんなに「名たんてい」といわれるかもしれません。
「わかりました。何とかしてみましょう」
ぼくがそう言うと、ジェイは ヒゲを ピクピク動かしました

ホリーさんの家は、かしの木村の 大通りから 少しはずれた ところにあります。
ゆめを おぼえていない、ということは、きっと だれかが 
ホリーさんのゆめを ぬすんだのに ちがいありません。

ぼくとジェイは、さっそく まわりの家に きいてみることに しました。
「ゆうべ、ホリーさんの 家のまわりで、あやしいひとを 見かけませんでしたか?」
右どなりは 子だくさんの ガチョウおばさん、左どなりは ライオンさんのふうふ、 まむかいは ロバじいさん。

どの家でも こたえは 同じです。
「さあねえ・・・見かけなかったと おもうけどねえ」

ぼくとジェイは ロバじいさんの 家を出ると 2人いっしょに 大きなためいきを つきました。
「どうする? しんちゃん、やっぱり ぼくたちには むりなんじゃないかい?」
「そんなことないよ」
強がってみせましたが、ぼくも 本当は 不安でした。
このままだったら ホリーさんを がっかりさせてしまうし「名たんてい」にもなれません。
そんなのは ぜったい いやだ!
「あきらめちゃだめだよ、ジェイ。うらの家にも いってみよう」

ホリーさんの うらの家の にわでは、ヒツジおくさんが 花をきっていました。
「こんにちは、ヒツジおくさん」
「あら、こんにちは しんちゃん
パチン、パチン、パチン、パチン
ヒツジおくさんは 花を切りながら 言いました。

「まったく、こまってしまうわ。わたしの たいせつな花が すっかり ダメになってしまって」
見ると、たしかに 花だんの花が おれてしまっています。
「これは ひどい。いったい、どうしたんですか?」
「だれかが あらしていったのよ。 しょうこが あるもの」
ヒツジおくさんは、土の上を ゆびさしました。
からだのあと。それから 足あとも。
手がかりだ! ついに 見つけたぞ!

「でも、どうして ヒツジおくさんの花だんを あらすんだい? しんちゃん
「よく かんがえてみれば わかるよ、ジェイ」
ぼくは 上を見上げました。
「あそこが ホリーさんのへやだ」
ピンクのカーテンから、ホリーさんの 白い耳が 見えます。
「はんにんは、きっと あそこから おちたんだ」

「なるほど! そうか、そうだよ! しんちゃん!」
ジェイは 両手を うちならしました。
「じゃ、あとは からだと足の形から、はんにんを 見つけるだけだね」
ぼくは てちょうを とり出すと、土の上の からだと足の形を スケッチしました。
ウシのようで、ウシじゃない。ウマのようで、ウマじゃない。
こんな動物、かしの木村に すんでいたっけ?
スケッチしおわると、ぼくは てちょうを パタンと とじて ポケットに しまいました。
「よし、これでバッチリだ」

「なんだか しらないけれど」
ヒツジおくさんは パチン、パチンと 花を切りながら 言いました。
「早いところ、はんにんを つかまえてね。花だんの うえかえを やってもらうから」

ぼくたちは じむしょにもどると、さっそく しりょう室で 動物ずかんを しらべました。
ウシのような ウマのような、でも そのどちらでもない動物。
ブタのジムさん? イノシシのケイトおばさん? それとも アリクイのピーター? 
それとも それとも・・・・・・

<バクは 夢を食べると 言い伝えられている>

「あった!」
ぼくとジェイは 同時にさけびました。
ちゃんと バクの絵も のっています。
ウマのような ウシのような からだと 足の形。
まちがいありません! 
はんにんは バクのローリーだったのです!

「ローリー?」
ジェイは ヒゲを ピクピクとうごかしました。
「あの まっくら森に すんでいる?」
「しかたないよ、じけんかいけつの ためだもの。それに ホリーさんも よろこぶよ」
「そうか! ホリーさんに れんらくしなくちゃ」
でんわがあるのに、ジェイは バタバタと ホリーさんの家に はしっていってしまいました。

まっくら森は、かしの木村の はずれにある、だれも ちかづかない 大きな森です。
森の中は、ときどき 鳥のなき声や 木の実の落ちる音が するぐらいで、
ひどくひっそりとしていて ひるでも うすぐらいのです。
草をステッキではらい、小川をわたり、たおれた木の下を くぐって、
どんどん 森のおくへ すすみます。
でも ローリーの家は なかなか 見つかりません。

「おかしいなあ・・・ 地図では このあたりの はずだけど」
「もしかして、まよったんじゃないよね」
ジェイは ヒゲを ピクピクさせました。
「あっ! あれは?」
ホリーさんは 大きなほらあなを ゆびさしました。
入り口のポストに

<かしの木村999番地 バクのローリー>

と 書かれています。

「ここだ! とうとう ついたぞ!」
いよいよ ようぎしゃとの たいけつです。

「ごめんください。ローリー いますか?」
ぼくたちは よびりんを ひっぱりましたが、だれも 出てきません。
「ローリー、ぼく、たんていじむしょの くつたにしんやです」
今度は、ドアを ドンドン たたきましたが、やっぱり だれも 出てきません。
「ひょっとしたら、にげたとか?」
「そんなあ、せっかく ここまできたのに」
ジェイが がっかりして 言ったとき、ドアが ギィッと 音を立てて ひらきました。

「うるさいなあ、せっかく ひるねをしていたのに」
ローリーは 目をこすりながら、ふきげんな声を 出しました。
「何だって そんなに ドアをたたくんだい?」
「あの、ぼくたち、あなたに とてもたいせつな ようじが あってきたんです」

「ホリーさんのゆめ、だって?」
ぼくたちの話を ききおわると、ローリーは あくびをしながら ねむたそうに 言いました。
「ああ、ゆうべ 食べたよ」
「本当ですか?」
ホリーさんは いすから からだを のり出しました。

「それで、どんな ゆめだったのですか?」
「おいしかったよ、とてもとてもね」
ローリーは まんぞくそうに おなかを さすりました
「あまくって、でもすっぱくて、まろやかで でも 歯ごたえがあって。
あんまり うまいから、あんたのまどに のぼって むちゅうで 食っているうちに、
下におちちゃったよ。それくらい、うまかった」
「ないようは? おぼえていないんですか?」
ホリーさんは 言いました。
「そのゆめを もう一度 見たいんです。おねがいです、かえしてください!」

「かえせないよ、もう 食っちまったんだから」
ローリーは あっさりといいました。

「そんな言い方って ないでしょう? 
こんなに たのんで いるんだから、かえしてあげても いいじゃないか!」
ジェイは ヒゲを ピクピクさせながら どなりました。
「何とかできないんですか? おねがいです、ローリー」
ぼくも ローリーに 言いました。

「みんなで そんなに おれを わるものあつかい しないで くれよ」
ローリーは 長いためいきを つきました。
「どうしろって言うんだ? ゆめは、もう くっちまったんだぜ? 
おれは あのゆめが すきだったよ。わすれられないくらい、うまかった。
あんたもだろう? もう一度見たい、と思うくらい。それで いいんじゃないのか」

ぼくもジェイもホリーさんも、だまって ローリーの話を きいていました。
頭の中で、ローリーの言ったことを かんがえていたからです。
「花は すぐちってしまうから、みんな だいじにするんだろう? 
にじだって、すぐに きえてしまうから よけいに きれいに 思えるんじゃないのか?」

「そうですね」
しばらく だまったあと、ホリーさんは ポツリといいました。
「そのとおりですね。すてきなゆめを見て、 
ローリーさんが おいしいと 思って下さったのなら、それでいいです」
「すてきなゆめは、また見れますよ」
ぼくは 言いました。
「そしたら、ぼくに話して下さいね」
ジェイも ヒゲを ピクピクさせながら ホリーさんに いいました。

「じゃ、話が まとまったところで、みんな、おちゃを もう一ぱい のまないかい?」
ローリーが言うと、ぼくたちは 大きくうなずきました

さて、それから ぼくたちが どうなったかというと 
ぼくは いちやく むずかしいじけんを かいけつした 
「名たんてい」として ゆうめいになった・・・
・・・のなら よかったのですが、けっして そんなことは なくて、
ぼくのじむしょは 今日も とっても ひまで、
ぼくは もう 九はいも おちゃを のんでしまいました。

ジェイは 今日はいません。ホリーさんと ピクニックに いって おやすみなのです。
ローリーは ヒツジおくさんの家に 毎日 花のせわをしに いっているようです。

みなさんも、もし 何かこまったことが おこったら、
かしの木村の たんていじむしょに いらいに きてください。
何といっても、ぼく くつたにしんやは 
かしの木村 一番の「名たんてい」なのですからね。

(おわり)

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